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2013.12.22
埃まみれの
テレビの音が
うるさくてとても眩しい
窓の外ではきっと
いやになるほど散らかった昼の風が
私や
あなたの
身体を冷やす

つまらない日曜日だ
目を合わせたら手をとって
かわいたくちびるを押し付けて
なにかもっと甘いものの形を
見せてあげても
よかっただろうか

それはまるで
遠い国の
見知らぬ物語のようだ
懐かしく胸はえぐられて
泣きそうに震えて待っている
薄い紙を一枚破って
どぎまぎしながら床を見つめている
どうして
どうして
手に入れたことなどないように

(ガラスの部屋の中)
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2013.12.02
 一人の旅人が、小さな舟で、川をくだり、終には海へとやってきた。

 舟の上には、本と、万年筆とノート、わずかな食糧、そして旅人に似つかわしくない、毛足の長いつやつやとした毛布がのっている。時計は持っていないが、日はゆっくりと傾き、じきに暗く、寒くなるだろうと思われた。旅人はある友人のことを考えた。友人のことを考えながら、ノートを一枚破り、彼に宛てて手紙を書きはじめた。かつての友人へ、あるいはかつての彼自身に向けた、いくつもの言葉が降りてくる。
 その間も、舟はしずかに進んでいく。もはやここは川ではないのだから、上から下へ行くでもない。只、波のゆれうごくその流れに、すべてはゆだねられていた。
 旅人が手紙を書き終えてしまうと、あたりはすっかり暗くなっていた。どこか温かい気分に満ちていた彼は、ふいに孤独を感じる。そうだ、ここは広い広い海の真上。友人の声は聞こえない。彼はそっと丁寧な手つきで、手紙を水面へと浮かべた。出来る限り優しく浮かべたはずなのに、手紙はすぐに沈んでいき、吸い込まれるように消えてしまった。あたりはどこまでもしーんとして、真っ暗だ。これではもう手紙を書くどころか、本だって読めやしない。旅人は疲れて、ゆっくりと瞬きをした。
 すると旅人の目の前に、一本の木が現れた。
若いのか古いのか、ぱっと見ただけでは判断がつかない。ふしぎに懐かしい感じのする木だ。深すぎない黄みがかったグリーンの葉は丸みを帯びていて、とても柔らかそうに見える。そしてなぜか、あたり一面真っ暗だと言うのに、この木だけは不自然にかがやいていた。よく見ると、ところどころについている赤い花が、光っているようだった。
 旅人はまたしても優しい気持ちになった。いつのまにか波はやんでいる。旅人はこの木のもとに留まれることを心の底から祝った。そして彼は毛布にくるまり、本を読みはじめた。必要なぶんだけの光を、木は照らしている。古びたページをめくりながら、ときどきチョコレートをかじり、ウィスキーを舐める。幸福な時間だった。時計は持っていないが、夜はこのままずっと続くのだろうと思われた。
 しかし旅人はあることに気がついた。時間が経つにつれて、花はひとつずつ落ちて、その光を失ってしまうのだった。この花がすべて落ちてしまえば、もう本を読み続けることはできない――。旅人の頭の片隅にちいさな悲しみと焦りが灯った。しかしそれでも旅人は本を読み続けたし、その時間は彼にとって十分に満たされたものだった。
それから永遠のような時間が流れた頃、このふしぎな木の花は、ついに残り一つとなっていた。旅人はそのことに気づきながら、まだ本を読んでいる。たくさん積んできたのだ。彼はたった今読み終えた本を閉じ、次の本を手にとり、開き、一行目を目で追いはじめようとしていた。
 そのとき、最後の赤い花が、ぽとりと海の水面に落ちた。とっさに旅人は目を瞑った。ああ、まだ始まってもいないのに――旅人は悔しいような淋しいような気持ちでいっぱいになった。また一人の真っ暗な孤独の中に投げ出されてしまう。そう思ったのだ。しかし、同時に、彼にとって孤独はもはや古い友人の一人であるかのようにも思えた。この夜じゅう読んできたたくさんの物語が彼の中で生きているのは、ほかでもない孤独のおかげかもしれない。
 旅人は、おだやかな気持ちで目を開けた。そこに暗やみはなかった。朝が来ていたのだ。旅人はおどろき、また、安堵した。なんだ。本などいくらでも読めるし、こんなに明るいのだったら、またどこへでも行けるだろう。ふしぎな木は、姿を消していた。太陽が眩しい。急に体が重くなったように感じ、彼はしずかに目を閉じた。波はゆったりと舟を揺らしている。

 旅人は、眠りについた。

(わだつみの木)
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